ラマヌジャンのゼータとオイラー積
このページはマス旅の一部です。
これまでラマヌジャンに関係のある数式を扱ってきました。
知れば知るほど、それまでにない俯瞰した視点からの「未知の数学」という氷山の一角を作ってしまう異才、神の子であることがわかってきましたね。
今回はリーマンとはちがうラマヌジャン独自のゼータとオイラー積を作ってしまったというお話です。
1.ラマヌジャン以前
ラマヌジャン以前には、オイラーが生みリーマンが育てた
リーマン・ゼータ関数がありました。
これは、ζ(s)=1/整数^sの無限和=1/(1-p^{-s})の無限積
という形のもので、ざっくりいうと
「整数を使った無限和=素数を使った無限積」
という形をしています。
「整数を使った無限和=素数を使った無限積」の形のものは、
他にもありました。ディリクレのL関数です。
L(s,χ)=Σχ(n)n^(-s)=Π(1-χ(p) p^(-s) )-1 (pは素数)
これらの共通点は、右辺にある素数の無限積の因子が p^{-s}の1次式しかなかったということです。
この状況を変えたのがラマヌジャンです。
p^{-s}の2次式のオイラー積を作ったのです。
このことがもたらした効果は測り知れないのですが、そこはこのページの範囲を超えるので、
興味のある人は黒川さんや小島さんの本を参考に探求してください。
このページでは、そもそもそれが何なのか、という導入にフォーカスをあてていきます。
2.ラマヌジャンはΔとτを定義する
<Δからτへ>
ラマヌジャンは
q=e^{2πiz}とするときに
Δ=qΠ(1-q^n)^24
という無限積を定義しました。
(qはzの関数だから、Δもzの関数と言えます。)
さて、
Δはqに(1-q)^24、(1-q^2)^24、(1-q^3)^24、(1-q^4)^24、(1-q^5)^24、……と無限にかけたものですね。
d(k)=(1-q^k)^24とおくと、
Δ=q*d(1)d(2)d(3)d(4)d(5)...........と簡単にかけますね。
では最初のd(1)の展開はどうなるでしょう。
(a+b)^nの展開公式を使うとわかりますね。高校でやる2項定理、一般項はnCr a^qb^r (q+r=n)
が使えます。
q=q
d(1)=(1-q^1)^24=1 -24C1 q +24C2 q^2 -24C3 q^3 +24C4 q^4 +.......
d(2)=(1-q^2)^24=1 -24C1 q^2 +24C2 q^4 -24C3 q^6 +24C4 q^8 +.......
d(3)=(1-q^3)^24=1 -24C1 q^3 +24C2 q^6 -24C3 q^9 +24C4 q^12 +.......
d(4)=(1-q^4)^24=1 -24C1 q^4 +24C2 q^8 -24C3 q^12 +24C4 q^16 +.......
d(5)=(1-q^5)^24=1 -24C1 q^5 +24C2 q^10 -24C3 q^15 +24C4 q^20 +.......
........
d(k)=(1-q^k)^24=1 -24C1 q^k+24C2 q^2*k -24C 3q^3*k +.......
........
となりますね。
これらをqにすべてかけて展開して整理すればqの多項式ができるでしょう。
この多項式の係数を計算してみよう。
上に数式の次数をたてにみると、1列目が1の倍数、2列目が2の倍数、3列目が3の倍数、4列目が4の倍数、。。。。のように、列目の倍数が並びます。
qにどのd(k)のどの指数を取り出してかけるかを考えて整理しましょう。
指数1はqに定数1をかけるから、係数は1
指数2はqに、d(1)の-24C1 qをかけるから、係数は-24C1=-24
指数3はqに、d(2)の-24C1 q^2か、d(1)の+24C2 q^2をかけるから、係数は-24C1+24C2=252
指数4はqに、d(3)の-24C1 q^3か、d(2)の -24C1 q^2とd(1)の-24C1 qの積か、d(1)の-24C3 q^3 をかけるから、係数は -24C1+(-24C1)^2 -24C3=-1472
指数5はqに、
d(4)の-24C1 q^4か、d(3)で3次とd(1)で1次か、d(2)で2次とd(1)で2次か、d(2)で4次か、d(1)の5次をかけるから、係数は-24C1+(-24C1)^2+(-24C1 )*24C2+24C2+24C4=-24+24^2-12*23*24+12*23+23*22*21=4830
・・・・
q^nの係数をτ(n)とかくことにすると、
τ(1)=1,
τ(2)=-24,
τ(3)=252,
τ(4)=-1472,
τ(5)=4830
まで計算できた。
これ以降は計算されたデータがあちこちにあるので、それを参考にしてかくと
τ(6)=-6048,
τ(7)=-16744,
τ(8)=84480,
τ(9)=-113643,
τ(10)=-115920,
τ(11)=+534612,
.......
ラマヌジャンの論文ではτ(30)まで載せているらしい。これ自体驚異的ですね。
ラマヌジャンに敬意を表して「ラマヌジャンのタウ関数 τ(n)」と呼びましょう。
τのおかげで無限積が1本の多項式
Δ=τ(1)q+τ(2)q^2+τ(3)q^3+........=Στ(k)q^k
とすっきりと書けるようになりましたね。
<τの性質1>
従来の数学の思考の流れは公理を決めて、定理を作る、証明をかくというものでした。
それが数学書のスタンダードですね。もちろん、親切な数学書は背景や系や関連なども
かいてあります。
ラマヌジャンはちがいます。
「科学の実験結果のようなデータとしての数式」が並ぶのです。
だから、ラマヌジャンと付き合うときは、当たり前からの天下り的な態度ではなく、
「未知との遭遇、探検隊」という態度が必要でしょう。
たとえば、τ(2)τ(3)を計算してみましょう。
τ(2)τ(3)=-24*252=-6048
おっ、これは2×3=6のτ(6)と同じだ。
これだけではありません。
τ(2)τ(5)=-24*4830
を計算してみてください。
予想通り
-115920=τ(10)になってますね。
このようにf(m*n)=f(m)*f(n)のように、かけ算を関数の入り口でやっても出口でやっても同じになるとき、
この関数fは乗法的だといいます。
たし算の場合な加法的といいましたね。
加法的は関数は線形性があるのでとても便利でした。f(n+m)=f(n)+f(m)というやつです。
乗法的な関数も便利です。もし、nが合成数ならτ(n)の計算がn=30どころか、いくらでも因数に分解して
計算できるからです。
たとえば、
τ(30) = τ(2) τ(3) τ(5) = (-24) × 252 × 4830 = -29,211,840
いやあ、便利ですね。
ただし、いつでもOKではないようです。
でも素晴らしい発見です。
「nとmが互いに素ならτ(n)τ(m)=τ(nm)」
です。
これは、のちにモーデルさんが証明したといわれています。
<τの性質2>
こうなると、気になるのが素数のべきのτです。
違う素数のべきは互いに素ですから、素因数分解できる整数をτに入れると、
乗法性を使ってτの積に分解できて、τの中身は1つの素数のべきになるはずです。
たぶん、ラマヌジャンはそう考えてさまざまな実験したと思われます。
τ(8)-τ(2)τ(4)=84480-(-24)*(-1472) =49152
49152/-24=-2048=-2*1024=-2*2*512=-2*2*2*256=-2^3*2^4*2^4=-2^11
τ(27)-τ(3)τ(9)=-73279080-252*(-113643)=-44641044
-44641044/252=-177147
もしかしたらと思って、3^11を計算してみると、177147になります。
これを一般化すると、素数pについて、
τ(p^3)-τ(p)τ(p^2)=-τ(p)p^11
という法則が予測できますね。もう少し実験すると、
τ(p^4)-τ(p)τ(p^3)=-τ(p^2)p^11
τ(p^5)-τ(p)τ(p^4)=-τ(p^3)p^11
..................
などが予測できるでしょう。
さらに一般化すると、
τ(p^{k+2})=τ(p)τ(p^{k+1}) - p^11τ(p^k)
という「pのべきの次数下げ法則」が見つかったのです。
さきのτの性質1(τの乗法性)とこのτの性質2(pのべきの次数下げの法則)
この2つを利用することで、ラマヌジャンがゼータζ(s)の分子をτ(k)にした式
ラマヌジャンのゼータ
L(s,Δ)=τ(1)/1^s+τ(2)/2^s+τ(3)/3^s+......
=Στ(k)k^(-s)
=Π(1/[1-τ(p)(p^(-s))+p^11 (p^(-s))^2] )
(2次のオイラー積)
を見つけたのです。
これまた、ラマヌジャンは証明はしてませんでしたが、おなじみのモーデルさんが証明しています。
ラマヌジャンが気付いていたことを、明確にすきがないようにモーデルさんが記述したのですね。
中身は今まで紹介した、τの2つの性質を使うという点では同じです。
超技巧的な式変形ですが、共通因数でくくったり、置き換えをしたり、
数学的帰納法を使うなどの高校数学の技法を粘り強く使っているようです。
いわゆる、「初等的だけど難度が高い」というものです。
なので、省略します。
この計算や証明の詳細は、
具体的でわかりやすい説明が小島本「ラマヌジャンの数学」の第4章にあります。
厳密でていねいな説明が黒川さんらの本「数論Ⅱ 岩沢理論と保型形式」の第9章の1にあります。
論理的な飛躍が嫌いで、隙間をうめないと気が済まない人は参考にしてみてください。
3.保型形式の重みの利用
<保型形式の重みの利用について>
モジュラー変換で不変なものを探したことがあったね。くわしくはこちら
その舞台は、複素平面上にある格子Lというのは、ぷつぶつの点(複素数)wの集まりで、
2つの基底w1、w2の整数係数の線形結合L = {mw_1 + nw_2}なので加法群です。
(基底比τ=w1/w2は上半平面とします。つまり、Im(τ)は正です。)
「複素数zに対するモジュラー変換」とは、1次分数変換z=(az+b)/(cz+d)を行列{{a,b},{c,d}}に表示したときに行列式ad-bc=1となるたちへの名前でしたね。基本はシフトz+1と反転-1/zの合成でできた。
これらのモジュラー変換をかませてから関数fにτを入れてf(M(τ))=(cτ+d)^k f(τ)となるときに、
関数fを「重さkの保型形式」と呼びました。(分数式の分母のk乗倍という形に書くということです。)
たとえば、アイゼンシュタイン級数gk(z)=Σ1/(mz+n)^kの重みはkだったね。
保型形式については、これ以上くわしくかきませんが、
ラマヌジャンのΔ関数は「重み12の保型形式」だということが証明されていますね。ラマヌジャン自身がいろんな保形形式の重み知っていて、それを利用して計算したと思わる実験数式メモがたくさんあるようです。
アイゼンシュタイン級数gk(z)を2ζ(k)で割った商をEk(z)と名付けるとEk(z)=gk(z)/2ζ(k)。
たとえば、Σ∞(k^5/e^{2kπ}-1)=1/504。
これは正則アイゼンシュタイン級数E6(z)が重み6であることを利用してます。
また、
1/(2π√2)=1103/99^2
+(1103+26390 )/99^{2+4 } *4!/(4)^4
+(1103+26390*2)/99^{2+4*2} *(4*2)!/(4^2*2!)^4+................
+(1103+26390*k)/99^{2+4*k} *(4*k)!/(4^k*k!)^4 + ......................
これが、E2(z)を利用して求めているようです。
ちなみに、
1/(2π√2)=1103/99^2
+(1103+26390 )/99^{2+4 } *4!/(4)^4
からπ≒3.141592653589793と小数第15位まで一致するそうです。
課題:geogebraで奇跡的なラマヌジャンの近似の精度を確認しよう。
geogebraの表示は小数第15位までにします。
a=1103/99^2
b=(1103+2630)/99^6 4!/4^4
c=1/ (a+b)2√2
text1="第2項までのπの近似"+c+""
3. 141592653589 793238462643.…ですが、内部計算の精度の関係で、第15位は4になりました。
第2項までのπの近似3.141592653589794
と表示されてますね。