対称性のある等式・不等式
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今回は「対称性(双対性、同次性、サイクリックなど)」がある数式を観察してみよう。
1.ウォーミングアップ
ウォーミングアップ
<ガウス少年>
対称性といえば、
ガウス少年の1から100までの和を求める数式が有名だね。
1から9までの和をSとすると、
S = 1 + 2 + 3+ 4 + 5 + 6 + 7 + 8 + 9
S = 9 + 8 + 7+ 6 + 5 + 4 + 3 + 2 + 1
2S=10+10+10+10+10+10+10+10+10=10×9=90
S=90/2=45ですね。
1つの式を逆順にしたものを並べて、「点対称に配置する」ことがポイントだ。
単調増加や要素出現の対等性が、対称性のベースにあることが感じられるね。
<ウィルソンの定理>
「任意の素数pに対して(p-1)!+1≡0(mod p)」がウィルソンの定理だった。
たとえば、p=7のときは、1×2×3×4×5×6+1≡0(mod 7)
素数のかけ算表を作ると1が単位元で、2×4≡3×5≡1、1×1≡6×6≡1(mod 7)のように
1から6までの単調増加数列の両端は2乗が1となり、残りはペアが1になる。
だから、2から5までの積は1になるので、1から6までの積は6と合同になる。
つまり、(p-1)!=p-1(mod p)のように、階乗記号がはずれるね。
これから、(p-1)!+1≡p-1+1=p≡0(mod p)となる。
綺麗な点対称ではないけれど、「要素出現の対等性とペアが重複しないこと」がポイントだね。
<相加平均は相乗平均以上>
「(a+b)(b+c)(c+a)≧8abc 」というサイクリック、対等出現、次数が両辺とも3次という不等式。
3種の文字を2種にすれば、「(a+b)≧2√ab(相加平均が相乗平均以上)」という式ができるね。
この不等式自体は両辺2乗の差が平行完成できるから0以上ということで、簡単に証明できるし、
等号はa=bに限ることも自明だ。
これを文字を「サイクリックに変えていく」と、
(b+c)≧2√bc、
(c+a)≧2√caと
全部で3式できる。
だから、辺々かければ右辺は8√(abc)^2=8abcになる。
証明終わり。なお、等号はa=b=cに限る。
<3文字の因数分解>
「a^3+b^3+c^3-3abc」の因数分解。a,b,cについて対等で次数が3次の式だね。
だから、(a+b+c)を因数にもつことが予想できる。
「あえて対称性をくずす」作戦でやってみよう。
a=xとおき、xの3次式の係数をならべると、
(1,0,-3bc, b^3+c^3)となるね。これが(a+b+c)つまり(1, b+c)で割り切れるはずだ。
係数分離法で割り算してみよう。
(1,0,-3bc, b^3+c^3)÷(1, b+c)は、最初の商は1で、余りは(-b-c,-3bc, b^3+c^3)
(-b-c,-3bc, b^3+c^3)÷(1, b+c)は、最初の商は-b-cで、
余りは((b+c)^2-3bc, b^3+c^3)=(b^2+c^2-bc, b^3+c^3)
(b^2+c^2-bc, b^3+c^3)÷(1, b+c)は、最初の商はb^2+c^2-bcで、
余りはb^3+c^3-(b+c)(b^2+c^2-bc)=-(bc^2+cb^2)+(b+c)bc=0となり割り切れた。
だから、商は(1,-b-c,b^2+c^2-bc)。これは、x^2,x,1つまり、a^2,a,1の係数だから
商は1*a^2+(-b-c)a+(b^2+c^2-bc) *1=a^2+b^2+c^2-ab-bc-caとサイクリックになる。
a^3+b^3+c^3-3abc=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)
2.コーシー・シュワルツの不等式
美しく役に立つ不等式といえば、
「コーシー・シュワルツの不等式」があるね。
(x_1^2+x_2^2+....+x_n^2)(y_1^2+y_2^2+....+y_n^2)≧(x_1 y_1+x_2 y_2+....+x_n y_2)^2
(Σxi^2)(Σyi^2)≧(Σxiyi)^2
等号はxi/yiがすべて等しいとき。
これを2次元に制限したものは、
(a^2+b^2)(c^2+d^2)≧(ac+bd)^2
もし、ブラーマグプタ・フィボナッチ恒等式、(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ac+bd)^2+(ad-bc)^2
を知っていると、当たり前の式に感じられれるかもしれないね。
<証明1>
2つのベクトルX=(x_1,x_2,....,x_n)とY=(y_1,y_2,....,y_n)があるとき、
内積はX・Y=(Σxiyi)
ノルムは|X|=√(Σxi^2)、|Y|=√(Σyi^2)となるね。
内積の成分を使わない定義から、X・Y=|X||Y|cosθがいえる。(cosθ)≦1なので、
(X・Y)^2≦(|X||Y|)^2だ。ここで、成分を使う式に置き換えると、
(Σxiyi)^2≦(√(Σxi^2)√(Σyi^2))^2=(Σxi^2)(Σyi^2)
証明終わり。等号は2ベクトルのなす角θが0のときだから、XがYの定数倍になるとき,各成分についてyi=kxiとなる定数kがあるときに限る。
<証明2>
(x_1^2+x_2^2+....+x_n^2)(y_1^2+y_2^2+....+y_n^2)≧(x_1 y_1+x_2 y_2+....+x_n y_2)^2
左辺の展開ー右辺=Pとする。
Pの項はたとえば、x_i,y_j(i=1,2, j=1,2)だけ取り出すと、
x_1^2 y_1^2+x_1^2 y_2^2+x_2^2 y_1^2+x_2^2 y_2^2
-[(x_1 y_1)^2+(x_2 y_2)^2+2 x_1 y_1x_2 y_2]
=x_1^2 y_2^2+x_2^2 y_1^2 - 2 x_1 y_1x_2 y_2
=(x_1 y_2 - x_2 y_1)^2のように平方完成できる。
Pには、x_i, y_jのi,jを1からnまで動かすと、i,jが異なるペアnC2組だけの(x_i y_j-x_j y_i)^2ができる。
Pは平方完成の和だから、ゼロ以上である。証明終わり。
等号はカッコ内がすべてゼロ、異なるijについてx_i y_j=x_j y_iがすべて成り立つときだから、各成分の比が一定のときに限る。
#ここからはコーシー・シュワルツのありがたさ#
不等式の証明に使えます。
<複素数の三角不等式>
任意の複素数z1,z2について、|z1+z2|≦|z1|+|z2|
z1=a+bi, z2=c+diとすると、
左辺の2乗ー右辺の2乗=(a^2+b^2)(c^2+d^2)-(ac+bd)^2≧0。
これは2次元のコーシー・シュワルツの不等式そのものです。
<3次元のコーシーシュワルツの不等式の変形>
(a^+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)≧(ax+by+cz)^2
変数x,y,zは変数a,b,cと無関係に選べることに着目しましょう。
x=b,y=c,z=aとおくと
(a^+b^2+c^2)(b^2+c^2+a^2)≧(ab+bc+ca)^2
(a^+b^2+c^2)^2≧(ab+bc+ca)^2
両辺の平方根にします。
(a^+b^2+c^2)≧(ab+bc+ca)
a=b=c=1とするだけで、
x^2+y^2+z^2≧(x+y+z)^2/3
ベクトルX=(x,y,z)のノルムの2乗の下限が成分の和の2乗/3と分かる。
2乗するとゼロ以上になるので、正数の合計の下限がわかる。
たとえば、(a^2、b^2、c^2、x^2、y^2、z^2)=(A,B,C,D,E,F)とおくと、
(a、b、c、x、y、z)=(√A,√B,√C,√D,√E,√F)だから、
(A+B+C)(D+E+F)≧(√AD+√BE+√CF)^2
と2組の3数の和の積の下限がわかる。
<相関係数はベクトルのなす角のコサイン>
コーシーシュワルツ不等式はデータ分析にもつながる。
2項X,Yについてのx偏差とy偏差の積の平均Sxyを、xyの共分散(covariance)という。
xy平面を平均値を表す2直線x=m_x, y=m_yによって4種のデータ領域に区分できるね。
偏差X=x-m_x,偏差Y=y-m_yとすると、X、Yともに正だとXYも正、X,Yのともに負でもXYが正になる。
この2領域にデータの大半があるならば、データ全体は(X,Y)=(0,0)を通る右上がりの
直線に多く分布するから、共分散が正で絶対値が増えると正の相関が高いことに対応する。
逆に、X,Yの正負が反対の場合は、平均からのXの変位とYの変位が逆になるデータが多くなり、
積XYが負のデータが多くなる。だから、XY総和の平均である共分散が負になっていく。
相関係数rは2量の共分散Sxyを2変量の標準偏差の積SxSyで割った商。
r=
「相関係数の絶対値は1以下である」という性質がある。
n人のXとYの偏差データを、n要素をもつaベクトル、bベクトルとする。
r=Sxy/(SxSy)==cosθ (θは2つのベクトルの作る角)
相関係数の絶対値が1以下だというのは多次元データ空間のコーシーシュワルツの不等式そのものです。
r=1のとき、 θ=0(最大の正の相関)2つのベクトルは同じ向きに重なる。
r=0のとき、θ=90°(無相関)。
r=-1のとき、θ=180°(最大の負の相関)2つのベクトルは逆向きに1直線。
rはー1以上1以下の連続量なので、データベクトルの類似度を表せます。
AIなどの言語データをベースにするシステムでは、コトバの意味をベクトルで表します。
だから、コトバとコトバの類似度をこのrで求めることによって、意味の近さを判断して次にくるコトバを選ぶなど、「AIのコトバの選択」を支援するのに使われたりもしてますね。
3.チェビシェフの不等式
単調増加する2系統の数列ai,biがあるとき
(1/nΣa_ib_i)≧(1/nΣa_i)(1/nΣb_i)
つまり、
「積の平均は平均の積以上、平均の積は積の平均以下」
というのがチェビシェフの不等式だ。
等号は、数列が定数数列のときに限る。
単調増加が対称性につながる。
買い物イメージで考えると当たり前の結果だ。
「お菓子屋さんに行って好きなチョコを6個買いに行くとする。
100円、200円、300円の3種類から選ぶなら、300円をまるごと6個買うのが一番高くつく。
もし、3種類を全部混ぜるけど、1個、2個、3個のように差をつけて買うことにする。」
一番安いのは100×3+200×2+300×1=1000 (円)の買い物で、
一番高いのは100×1+200×2+300×3=1400 (円)の買い物になる。
チョコの平均単価は(100+200+300)/3=200(円)
チョコの平均個数は(1+2+3)/3=2(個)
チョコの最高代金は100×1+200×2+300×3=1400(円)。
1個当たりの平均代金は1400/3= 466.7
これ以外の買い方をしても、この代金には達しない。
平均の積は200×2=400で、積の平均は466.7だから、
平均の積は、積の平均以下になっている。
これを一般化すると、
(1/nΣa_i)(1/nΣb_i)≦(1/nΣa_ib_i)となるはずだ。
もともと単調増加数列のペアがあること、
そして、このペアを壊さずにかけ算した積の平均が、平均の積の最大値になるということだね。
<証明1>
あらゆる差のペアの合計Pを考えてみよう。
そのために適当な2ペアを取り出す
2ペア(a_i,b_i)(a_j,b_j)だ。
この差のペアを作るDij=(a_i-a_j)(b_i-b_j)
aもbも単調増加なので、jがi以上ならば、a_i-a_jも、b_i-b_jも0以下だから、積Dijは0以上となる。
iがj以上ならば、a_i-a_jも、b_i-b_jも0以上だから、積Dijは0以上となる。
だから、いずれにしても、Dijは0以上となるね。
その総和であるPも0以上になる。
i,jを1からnまで無関係に動かすと、
P=ΣΣDij=ΣΣ(a_i-a_j)(b_i-b_j)
=ΣΣ(a_ib_i-a_jb_i-a_ib_j+a_jb_j)=nΣ(a_ib_i)-2ΣΣa_ib_j+nΣ(a_jb_j)
=2(nΣ(a_ib_i)-(Σa_iΣb_j))
だから、nΣ(a_ib_i)≧(Σa_iΣb_j)が言える。
これから、(1/nΣaibi)≧(1/nΣai)(1/nΣbi)
<証明2>
n=2のとき、
2(ax+by)-(a+b)(x+y)=ax+by-ay-bx=(a-b)(x-y)≧0
n=3のとき、
3(ax+by+cz)-(a+b+c)(x+y+z)
=(ax+by-ay-bx)+(by+cz-bz-cy)+(cz+ax-cx-az)=(a-b)(x-y)+(b-c)(y-z)+(c-a)(z-x)≧0
一般に、nΣ(a_ib_i)-Σa_iΣb_j)の展開は、
前半からa_ib_j(i=j)がn項できて、係数がnになる。
後半からa_ib_j(i,jが独立に変化)がn^2項できるが、
iとjが別なのがn^2-n=n(n-1)項あり、-a_ib_jと-a_jb_iの2項を1組にすると、n(n-1)/2組できる。
iとjが同じものは、前半と同数のn項あり係数が1だから、前半ー後半で、n-1が係数でn項できる。
さて、このi=jのn項の係数n-1を係数1にして、反復して書き出すとn(n-1)項できる。
これをn(n-1)/2組に配分すると、n(n-1)/(n(n-1)/2)=2項ずつ割り当てることができる。
それが、a_ib_iとa_jb_jだ。
これから、任意の組は-a_ib_jと-a_jb_i+a_ib_i+a_jb_j=(a_i-a_j)(b_i-b_j)となり、証明1と同様に0以上となる。だから、値が0以上の組の合計は0以上。
証明1が部分からの積み上げだとすると、証明2は部分への分解になっている。
どちらも同じ部分を使うけれど、方向性が逆なのが面白いね。
#チェビシェフ不等式のお役立ち#
<積和の最大化するには大小の順位が同じペアで>
利益率の部門のランキングと生産性の高い人材のランキング。
学習効率の高い科目のランキング、学習効率の高い時間帯のランキング。
積の大きいものが価値が高いときはランキングの高いもの同士をかけます。
このように、組み合わせの最適化によって、ポートフォリオ効果をねらいます。
これは説得力がありますね。
<積最大化は要素を等しくする>
aが増加数列で、bが減少数列だと、その順で積を作るときが最初になります。
これが逆順チェビシェフ不等式です。
(1/nΣa_ib_i)≦(1/nΣa_i)(1/nΣb_i)
直方体の3辺が単調増加でa,b,cだとします。直方体の体積はV=abc。
辺の対面の面積は、bc,ca,abで単調減少になります。直方体の表面積はS=2(bc+ca+ab)です。
辺×対面の合計はabc+bca+cab=3abc=3Vです。
辺の数列と面の数列を逆順チェビシェフ不等式にあてはめましょう。
nΣ辺×面≦Σ辺Σ面ですから。
3(3V)≦(a+b+c)(bc+ca+ab)=(a+b+c)S/2
9V≦(a+b+c)S/2ですね。
a+b+c=6として、実験します。
(a,b,c)=(1,2,3)のとき、S/2=(1×2+2×3+3×1)=11,V=1×2×3=6。
9V=54, (a+b+c)S/2=66なので、54<66で成り立ちます。
(a,b,c)=(2,2,2)なら、、S/2=(2×2+2×2+2×2)=12,V=2×2×2=8。
9V=72, (a+b+c)S/2=72なので、72=72で成り立ちます。
直方体の辺の和a+b+c を一定としたとき、
立方体(a=b=c)のときにVが最大化(あるいは等号成立)する
ということです。
<共分散を正にする>
(1/nΣa_ib_i)≧(1/nΣa_i)(1/nΣb_i)
この左辺はa_i,b_iを偏差X,Yと見ると、共分散そのものです。
右辺は、偏差Xの数列も、偏差Yの数列の変化が増加どうしか減少どうし、
つまり、同方向に変化するときは正になります。
ということは、共分散は2種のデータの増減が同じ方向に変化するときに正になる
ということがチェビシェフ不等式が支持してくれているのです。
<振り返り>
複雑に見える数式も、「どのような対称性があるか」という視点を持つと、
いろんな使い道があることがわかるね。
課題:2種のデータの変動の仕方で共分散、相関係数の変化を感じよう。
タイトルは「データの変動の特徴と共分散、相関係数」
#単調増加数列のペア
a={1,2,3,4,5}
b={1,3/2,9/4,27/8,81/16}
#一定数列のペア
p={2,2,2,2,2}
q={3,3,3,3,3}
#ランダム整数のペア
s= RandomBetween(1, 10, 5)
t= RandomBetween(1, 10, 5)
Xs={a,p,s}
Ys={b,q,t}
num=slider(1,3,1)
X=Element(Xs,num)
Y=Element(Ys,num)
XY=Zip((p,q),p,X,q,Y)
Cov=Sxy(XY) #共分散
Sx=sqrt(Sxx(XY))
Sy=sqrt(Syy(XY))
r=Cov/(Sx Sy)#相関係数
text1="X=" + X + ",Y="+Y+ ""
text1="共分散Sxy=" + Cov + ",相関係数r="+r+ ""